先日、受講生の方からこんな質問をいただきました。不動産投資を始めたい。有料のセミナーにも出たいし、本も買いたい。すでに成功している方に個別で話を聞きたいし、司法書士や税理士への相談料も要る。現地を見にいく交通費と宿泊費もかかる。
「これ、合計でいくらまでなら使っていいものなんでしょうか」
いい質問だと思いました。そして、自分が答えを持っていないことに気づきました。
そこで、投資額に対して最低でも何割は学びに使うべきなのか、その目安を示した統計やアンケート、論文を探しました。この記事は、その調査の結果と、目安が見つからなかったあとに私がどう考えているかをまとめたものです。
数字を扱う記事ですので、出典と、その数字から言えることの範囲も一緒に書いていきます。
この記事の目次
「投資額の何%を学びに」という基準は、見つからなかった
結論から書きます。投資額の何%を学びに充てるべき、という基準を示した公的な指針も、それを検証した研究も、私が調べた範囲では見つかりませんでした。
昔から当たり前のように語られている考え方なのに、根拠になる数字が無いのです。
ここで、少し困りました。「最低3%は学びに回しましょう」と言えたほうが、話は圧倒的に分かりやすくなります。けれども、無いものを有るように書くわけにはいきません。
「無いなら、無いと書こう。そのうえで、代わりに何が言えるのかを書こう」
そう決めて、調べ直しました。以下が、その過程で見つかった数字です。
代わりに見つかったのは、支出の実態を調べた数字だった
目安の代わりに出てきたのは、みなさんが実際にいくら使っているのかという実態調査でした。
株式投資では、800人に聞いた2026年の調査がある
全国の20代から70代の個人投資家800人を対象に、2026年3月にインターネットで行われた調査があります。株の学校ドットコム(運営:株式会社トレジャープロモート)による「株式投資の学習に関する実態調査2026」です。
学ぶために無料のものだけを利用している人が31.5%。学ぶために利用したものは無い、と答えた人が17.1%。書籍を買った経験がある人は18.5%で、単発セミナーが17.8%、継続して通うスクールが6.5%でした。
そして、これまでの学習にかけた金額が10万円未満だった人が、800人中510人です。
【この数字から言えること・言えないこと】
金額は年間ではなく「これまでに使った合計」です。また「10万円未満」の区分にはゼロ円の人も含まれます。有料の教育を提供している会社による調査であり、海外との比較もありません。ですので「日本人は外国人より学びにお金を使わない」とまでは、この調査からは言えません。
不動産投資でも、支出の分布を調べたアンケートがある
不動産投資のほうにも、近い調査があります。楽待編集部が2023年12月に公開した「不動産投資の勉強方法に関するアンケート」で、約100人の回答が紹介されています。
これまでの勉強にかけた費用は、費用をかけていないが約18%、1万円未満が約15%、1万円以上5万円未満が約19%、5万円以上10万円未満が約15%。5万円以上を使った方が半数ほどで、有料セミナーやスクールを利用した方では1回の催しに数十万円という例も紹介されていました。
ただし、これは支出の実態調査です。多く払った人ほど成果が出たのか、被害が少なかったのかは、この結果からは判断できません。
そもそも、学んだ経験そのものが少ない
もう一つ。金融経済教育推進機構が2025年に3万人を対象に行った金融リテラシー調査では、金融経済教育を受けたと認識している人は8.7%でした。
これは有料か無料かではなく、教育を受けた経験そのものの割合です。10人に1人に届いていません。
学べば知識と行動が変わることには、16万人分の根拠がある
目安はありませんでした。けれども、学ぶこと自体の効果については、はっきりしたデータがあります。
76件のランダム化実験、のべ16万人を超えるデータを統合した2022年のメタ分析(Kaiser・Lusardi・Menkhoff・Urban、Journal of Financial Economics)では、金融教育は金融知識と、その後の金融行動の両方にプラスの因果効果を持つと報告されています。
ランダム化実験を統合しているので、もともと意識の高い人が学んでいるだけではないか、という説明では片づきません。
詐欺のほうに直接触れた研究もあります。同じ2022年のBurkeらの論文(Journal of Economic Behavior & Organization)では、投資詐欺の特徴を教える短い動画や文章を使った実験が行われ、教育を受けた人は、提示された詐欺的な投資話への投資意向が下がりました。ただし、効果を保たせるには、もう一度学び直す働きかけが必要だとも書かれています。
ここは、はっきり書いておきます。この実験で効果が出たのは、短い教材です。ですので「高額な講座でなければ意味がない」という根拠には、まったくなりません。
私は講座を運営している側の人間ですので、ここを曖昧にすると、都合よく数字を使ったことになります。
詐欺の被害統計は、そのままでは学習費と結びつけられない
金融庁が2026年9月11日に公表した、2026年4月1日から6月30日までの「金融サービス利用者相談室」の受付状況があります。
投資商品等と暗号資産(仮想通貨)等を合わせた詐欺的な投資勧誘に関する相談は1,961件。そのうち1,616件で、実際に金銭的な被害が発生していたと公表されています。相談のうち8割を超える割合です。
この数字を見て、手が止まりました。
けれども、ここでも慎重に書きます。分母は「相談が寄せられた案件」であって、投資をしている人全体ではありません。そして、被害に遭われた方が学ぶことをためらっていたのかどうかを調べた統計でもありません。
ですので当協会としては、「数十万円の学びをケチったから、数百万円の被害に遭った」という書き方はしません。因果を示したデータが無いからです。
言えるのはここまでです。大きなお金を動かす前に、学ぶ費用と、確かめる費用も一緒に考えていただきたい。そして、学べば知識と判断が変わることは、研究で示されています。
【呼称について】
法令や公的な発表では「暗号資産」という語が使われますので、制度の説明ではその通りに記載しています。当協会では、Bitcoin は本来「システムの名前」であり、資産として整理してしまうと思考が発展しづらくなると考えているため、自分たちの言葉では総称として「暗号通貨」を使っています。
割合ではなく、何を確かめるための支出かで分ける
目安が無い以上、割合で決めることはできません。代わりに、私は用途で分けて考えています。
- 基礎を理解するための費用……書籍、講座、教材。案件が変わっても残ります。
- 目の前の案件を確かめるための費用……契約と税務の専門家への相談、物件そのものの調査。一回きりで消えますが、消えることに意味があります。
- それに必要な実費……交通費、宿泊費。
これは研究で決まった配分ではなく、予算を考えるための整理です。
不動産では、物件価格に対する割合で見るか、自己資金に対する割合で見るかで、同じ支出でも数字がまるで変わります。ですので、一律の最低ラインを決めることには、あまり意味がありません。
その支出が何を理解し、何を確かめるためのものなのか。そして、相手に専門性と独立性があるのか。そこを見るほうが確かだと考えています。
お金を払ったことと、身についたことは別の話
ここで、格好のいい話を続けたくないので、自分の失敗を書きます。これは、どこかで読んだ話ではありません。私が通ってきた話です。
私は昨年、リール動画の作り方を改善したくて、12万円の講座に申し込みました。そして今も、その内容を使いきれていません。
お金は払いました。学ぶ姿勢もあったつもりです。それでも、成果になっていないのです。
何を勘違いしていたかというと、支払った時点で半分終わったような気になっていたことでした。
学ぶ費用を惜しまないことと、学んだことが身につくことは、別の話です。ですので私は、「お金を出して学べば大丈夫」とは書けません。書いたら、自分の12万円が嘘になります。
しかしながら、あの12万円を後悔はしていません。使いきれていない教材を開くたびに、自分がどこで止まっているのかが分かるからです。
無料の情報に共通しているのは、それが誰かの結論だということ
ここまで書いてきましたが、無料を否定したいわけではありません。
いま無料で手に入る解説は、本当に質が高いのです。私自身も毎日読んでいますし、それで足りると判断される方がいるのは、自然なことだと思います。
ただ、無料で流れてくる情報には、一つだけ共通点があります。
それは「誰かが出した結論」だということです。
何故なら、誰かが調べて、誰かが判断した結果が、要約されて届いているからです。自分で確かめた過程が無いので、手元には残りません。次に別の話が来たときに、また誰かの結論を探すことになります。
そう考えると、有料か無料かは本質ではないのかもしれません。自分で確かめる過程が、そこに入っているかどうか。そこだけなのではないかと感じています。
フルノードは、どこにも「合っていますか」と聞きにいかない
ここから先は、お金という枠を一度外します。
Bitcoin のネットワークでは、フルノードがどこかの中央に「これで合っていますか」と聞きにいくことがありません。全部、自分の手元で検証しています。
そして、全てのフルノードが同じ情報を持っているため、ノードの間に格差がありません。一時的に離脱したノードも、再接続すれば、空白だった期間の情報を無料で受け取れます。遅れてきた者に、罰が無いのです。
当協会が12年この仕組みを伝え続けている理由は、値上がりではなく、ここにあります。
学ぶというのは、判断を他人に預けるのをやめる、ということなのではないかと感じています。投資額の何割を使ったか、ではなく。
まとめ
存在しなかった目安。800人のうち510人という10万円未満。8.7%という教育経験。16万人分のメタ分析。1,961件のうち1,616件。そして、使いきれていない12万円。
調べれば調べるほど、金額の目安は出てきませんでした。それでも一つだけ、どの数字も同じ方向を向いていました。
学ぶかどうかで、その後の判断は変わる。けれども、いくら払ったかでは変わらない。
そうであれば、私たちが用意すべきなのは、投資に回す予算だけではないのだと思います。理解するための予算と、確かめるための予算。この二つを、動かす前に並べて置いておく。
そこから先は、ご自身で確かめられます。
投稿者プロフィール
- 代表理事
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暗号通貨の思想とブロックチェーンの概念は、金融システムをより安全に低コストで運用できるだけでなく、銀行口座を持たない20億人の生活環境を底上げします。また、寄附や募金へ広く活用されることは、SDGsの達成にも貢献する事でしょう。一人でも多くの方と共に、正しい暗号通貨システムの可能性を学び、実生活や仕事にも取り入れて頂けるよう、当協会はこれからも「暗号通貨技能検定講座」の開催を重ねて参ります。
【資格・受賞歴】
・日本メンタルヘルス協会公認カウンセラー
・東久邇宮記念賞受賞
・東久邇宮文化褒賞受賞
・特許:特開2016-081134号
・特願:2018-028585
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