郊外の畑の脇に、野菜の無人販売所があります。棚にはキュウリやトマトが並び、袋ごとに「100円」と書かれています。代金は、木の箱に入れるだけです。店番はいません。それでも、売り買いは毎日きちんと成り立っています。
DeFi(分散型金融)は、この無人販売所によく似た仕組みです。銀行や証券会社のような店番を置かずに、プログラムが自動で、お金の交換や貸し借りを受け付けます。「仲介者がいないので手数料が安い」「24時間、国境を越えて使える」と聞いたことのある方も多いと思います。
もちろん、そうした期待を持つことが悪いわけではありません。仲介者を通さずに価値を届けるという発想は、Bitcoinが2008年に示した設計の、まさに中心にあるものです。そこに新しい可能性を見るのは、自然なことです。
しかし、それだけでしょうか。
無人販売所で、もし料金箱の鍵が壊れていたら、誰が責任を持つのでしょうか。棚を作った農家さんでしょうか。大通りに「この先、無人販売所」と看板を立てた人でしょうか。それとも、自分の目で確かめずに代金を入れた客でしょうか。
2026年10月20日、金融庁は「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」を開きました。DeFiや、その代表的な仕組みであるDEX(分散型取引所)のリスクをどう減らすのかも、主な論点の一つです。問われているのは、まさにこの「店番のいない金融で、責任はどこに置かれるのか」です。
私は生命保険の営業をしていた頃、お客様に必ず「何かあったときの窓口はここです」とお伝えしていました。窓口があることは、金融の安心の土台です。DeFiは、その窓口を持たない金融です。だからこそ、窓口の代わりに何が利用者を守るのかを、改めて考える必要があります。
この記事では、価格の話を一切しません。扱うのは、仲介者のいない金融の仕組みと、そこで責任がどこへ移るのか、だけです。専門用語は、出てきた場所でその都度ほどいていきます。
この記事で扱う3点
- 2026年10月20日に始まった金融庁の研究会は、DeFiの何を論点にしているのか
- 仲介者のいない金融では、責任がどこへ移るのか
- DeFiとBitcoinは、どこが同じで、どこが違うのか
こんな方に向けた記事です
- 暗号通貨に関心はあるものの、まだ始めていない方
- 「DeFi」「分散型」という言葉を聞いて、よく分からないまま距離を置いている方
- スマートフォンのアプリで、暗号通貨の交換を勧められたことがある方
- 金融・保険・ITの実務で、DeFiの規制について聞かれて答えに迷った方
- 価格の話ではなく、仕組みから理解したい方
それでは、本文へとお進みください。
目次
第一章:2026年10月20日、金融庁が開いた一つの研究会
まず、事実を確認します。
2026年10月20日の午後3時、東京・霞が関の中央合同庁舎第7号館で、金融庁の研究会が開かれました。正式な名前は「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」です。この年度としては、第1回の会合になります。
座長は、東京大学名誉教授で会社法・金融法の第一人者である神田秀樹氏です。メンバーには、法律家、経済学者、会計士、情報技術の研究者など14名が名を連ねています。オブザーバーには、全国銀行協会、日本証券業協会、日本暗号資産等取引業協会、預金保険機構が入っています。日本銀行、法務省、財務省、経済産業省も参加しています。
なお、本記事では、法令や団体・報告書の名前を指すときだけ「暗号資産」と表記します。それ以外の箇所では、当協会の表記に従って「暗号通貨」と書きます。
事務局の資料が示した論点は、大きく五つです。ステーブルコインと預金のトークン化。セキュリティトークン。DEXとDeFi。株式や債券の持ち主を記録する振替制度。そして、証券の受け渡しにかかる日数の短縮です。当日は、野村ホールディングスと、証券のトークン化を手がけるSecuritize Japanから聞き取りも行われました。
この研究会には、はっきりした背景があります。
金融庁は2026年7月21日、「成長投資を促進するための金融戦略」を公表しました。その中で、ブロックチェーンの上でお金や証券をやり取りする「オンチェーン金融」を進める方針を示しています。そして環境整備の柱の一つに、「DEX・DeFi・ウォレット業者のリスク低減策」を挙げました。ステーブルコインやトークン化の制度と並ぶ柱です。
2026年9月30日には、関係省庁とともに「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」の初会合も開かれています。今回の研究会は、そのフォーラムを制度の面から支える場です。2027年の初めには、中間的な整理と、官民のロードマップがまとめられる予定です。
聞き取りの中身も、示唆に富むものでした。
報道によれば、野村ホールディングスは、DeFiやウォレットの規制について一つの要望を示しました。海外に先んじて独自に決めるのではなく、海外と同じ程度の自由度にとどめてほしい、というものです。Securitize Japanは、国際的な互換性を欠く独自路線は、時間とコストがかかり、海外との差を広げかねないと述べています。
つまり、この研究会は「DeFiを禁じるかどうか」を話し合う場ではありません。仲介者のいない仕組みと、利用者を守る仕組みを、どう両立させるか。その設計図を描く場です。
では、なぜ今、店番のいない金融に、改めて光が当たっているのでしょうか。その手がかりは、私たちが「分散型」という言葉に抱いているイメージの中にあります。
第二章:「分散型=無法地帯」という見方と、実際とのずれ
DeFiという言葉には、二つの正反対のイメージがつきまといます。
一つは、「誰にも管理されない、自由で新しい金融」というイメージです。もう一つは、「誰も責任を取らない、危うい無法地帯」というイメージです。どちらの見方にも、一理あります。けれど、どちらも実際の姿からは少しずれています。
まず、言葉の意味を確かめます。
金融安定理事会(FSB)は、2022年2月の報告書で、DeFiを次のように説明しています。「分散台帳技術に基づき、仲介者を必要としない金融サービスを提供するもの」です。そしてDEXを、プログラムで動くP2P、つまり利用者どうしが直接やり取りする市場だとしています。
ここで大切なのは、「仲介者を必要としない」という言葉です。「誰も関わっていない」という意味ではありません。
無人販売所にも、棚を作った人がいます。値札を書いた人がいます。料金箱を毎晩回収する人もいます。店番がいないだけで、人の関わりが消えたわけではないのです。
金融庁の資料も、この点を指摘しています。分散型と称するDeFiでも、実際には一部の人や会社が強い影響力を持ち、中央集権的な性質を保っている場合がある、というものです。プログラムを書き換える権限を、特定の開発者が握っていることもあります。手数料の行き先を、少数の人が決めていることもあります。
つまり、「分散型」は白か黒かではなく、濃淡のある言葉です。完全に誰の手も離れた仕組みもあれば、看板だけが分散型で、中身は一つの会社が動かしている仕組みもあります。
もう一つのずれは、「規制」という言葉の受け止め方です。
規制と聞くと、「禁止される」「締め付けられる」と身構える方も多いと思います。けれど、金融の規制が見ているのは、技術そのものではありません。その技術を使ったときに、誰にどんな損害が生まれうるか、です。
国際的には「同じ活動、同じリスクには、同じ規制を」という考え方が広く共有されています。証券監督者国際機構(IOSCO)も、2025年11月の報告書でこの原則を確認しています。銀行の窓口で起きれば守られる利用者が、アプリの画面で起きたときには守られない。そうした隙間をなくすことが、規制の役割です。
この二つのずれを正すと、問いの形が変わります。「DeFiは良いか悪いか」ではなく、「店番のいない仕組みの中で、どの部分に、誰の責任を置くのか」という問いです。
その答えを探すには、DEXが実際にどのような部品でできているのかを知る必要があります。次の章で、その中身をほどいていきます。この記事で、いちばん長い章になります。
第三章:店番のいない取引所は、四つの層でできている
ここでは、ふだんの銀行振込と比べながら、DEXの仕組みを見ていきます。
銀行振込では、銀行が帳簿を持っています。口座を開くときに本人確認をし、振込の指示を受け、帳簿を書き換えます。振込先を間違えたときも、まずは銀行の窓口に相談できます。銀行は、記録係であり、確認係であり、困ったときの窓口でもあるのです。
DEXでは、この役割が、一つの会社に集まっていません。金融庁の資料は、一般の利用者がDEXで暗号通貨を交換するときに関わる要素を、四つに整理しています。無人販売所にたとえながら、順に見ていきます。
一つめの層は、DEX本体です。
交換のルールを書いたプログラムが、ブロックチェーンの上に置かれています。このプログラムを「スマートコントラクト」と呼びます。「AとBをこの比率で交換する」という決まりが書かれていて、条件がそろえば、誰の手も借りずに自動で実行されます。無人販売所でいえば、棚と料金箱そのものです。
二つめの層は、DEXアグリゲーターです。
DEXは一つではありません。世界中に数多くあり、交換の比率もそれぞれ違います。アグリゲーターは、複数のDEXを見比べて、もっとも有利な条件を探してくれる仕組みです。無人販売所でいえば、近所の販売所の値段を比べてくれる地図のようなものです。
三つめの層は、アプリやウェブサイトの画面です。
スマートコントラクトは、そのままでは一般の人には扱えません。そこで、ボタンを押すだけで交換できる画面を、誰かが作って提供しています。これを「UI」、利用者の接点と呼びます。無人販売所でいえば、大通りに立てられた「この先、無人販売所」という看板と、そこまでの道案内です。
四つめの層は、利用者自身が持つウォレットです。
DEXでは、利用者が自分で秘密鍵を管理する「アンホステッド・ウォレット」を使うのが一般的です。秘密鍵とは、自分の暗号通貨を動かすための、たった一つの鍵です。無人販売所でいえば、客が自分で握りしめている財布にあたります。
この四つの層を並べると、銀行振込との違いがはっきりします。
銀行では、記録・確認・窓口が、一つの会社にまとまっていました。DEXでは、それが四つの層に分かれ、それぞれ別の人や会社が担っています。棚を作った人と、看板を立てた人と、財布を持つ人が、みな別々なのです。
ここで、責任の置き場所が問題になります。
料金箱の鍵が壊れていたら、棚を作った人の責任に近いでしょう。看板が、品質の悪い販売所へ客を案内していたら、看板を立てた人にも責任がありそうです。財布を落としたら、それは持ち主の責任です。
金融庁が2025年12月10日に公表した暗号資産制度ワーキング・グループの報告も、この構造を踏まえています。DEXは、作った人が客を勧誘せず、作ったあとは人の関与が少ないという特徴がある。そのため、明確な規制の方法は、まだ確立していないと整理しました。
そのうえで、まず手をつける場所として、三つめの層を挙げています。国内に住む人に向けてDEXへつなぐ画面を提供する事業者です。接続先のリスクを説明する義務や、本人確認を含むマネー・ローンダリング対策を念頭に、実態の把握を進めるとしています。
店番のいない取引所にも、責任を置ける場所はある。ただし、それは一か所ではなく、層ごとに分かれている。これが、この章のいちばん大切なところです。
第四章:なぜ、仲介者を置かない設計が生まれたのか
では、なぜわざわざ、仲介者を置かない仕組みが作られたのでしょうか?
それは、仲介者に頼る仕組みには、仲介者が止まればすべてが止まる、という弱さがあるからです。
2008年10月31日、サトシ・ナカモトと名乗る人物が、Bitcoinの論文を公開しました。その冒頭で問題にされたのは、インターネット上の支払いが、ほぼすべて「信頼できる第三者」としての金融機関に頼っていることでした。仲介者がいる限り、手数料がかかり、取引が取り消されうるため、小さな支払いは難しくなる。論文はそう指摘しています。
そこでBitcoinは、帳簿を一つの会社に預けるのをやめました。世界中の参加者が、同じ帳簿の写しを持ち、同じルールで正しさを確かめ合う。仲介者の代わりに、全員で記録を守る仕組みを作ったのです。
すると驚きの発見!
仲介者がいなくても、見知らぬ人どうしの間で、価値の受け渡しが成り立つことが、実際に示されたのです。この発想が、のちにDeFiへと広がっていきました。お金を送るだけでなく、交換も、貸し借りも、プログラムで仲介者なしにできるのではないか。そう考えた人たちが、スマートコントラクトの上に、さまざまな金融の仕組みを作り始めました。
もちろん、仲介者を置く仕組みが悪いわけではありません。銀行や証券会社は、本人確認をし、間違いを正し、困った人の相談に乗ってきました。日本の預金保険の仕組みも、多くの人が安心してお金を預けられる土台です。仲介者は、長い時間をかけて磨かれてきた、社会の知恵です。
けれど、仲介者をなくすと、仲介者が担っていた役割も、一緒に行き場を失います。
本人確認は、誰がするのか。プログラムに不具合があったとき、誰が直すのか。犯罪に使われたお金を、誰が止めるのか。ここに、DeFiの設計が抱える宿題があります。
国際的な議論も、この宿題に向き合ってきました。
金融活動作業部会(FATF)は、マネー・ローンダリング対策の国際基準を定める機関です。FATFは2019年、暗号通貨の事業者を登録や免許の対象とする基準を最終化しました。そして2026年7月、DeFiの規制上の課題についての報告書を公表しています。
その報告書が鍵にしたのは、「支配者」という考え方です。DeFiの仕組みに、実際に強い影響力を持つ人や会社がいるかどうか。いるなら、その人を特定できるかどうか。この二つの物差しで仕組みを分け、支配者がいて特定できるなら、その人に事業者としての規制をかける、という整理です。
欧州も、同じ方向を向いています。欧州の暗号通貨規則は、完全に分散化され、仲介者が関わらない場合を対象外としています。そのうえで、欧州証券市場監督機構(ESMA)は2026年9月30日、「真に分散化されている」かを判断する基準づくりを提案しました。
つまり、世界の当局が問うているのは、技術の名前ではありません。その仕組みの中に、実際に店番の役割を果たしている人がいるかどうか、です。
第五章:責任の置き場所は、暮らしのどこに効くのか
ここまでの話は、遠い制度の話に聞こえたかもしれません。けれど、責任がどの層に置かれているかは、私たちの暮らしにも直接届きます。ここでは、四つの場面で考えます。
一つめの場面は、スマートフォンのアプリで「交換」ボタンを押す、30代の会社員です。
SNSで見かけたアプリを入れ、手持ちの暗号通貨を別のものに交換しようとしています。画面はきれいで、操作も簡単です。けれど、このアプリが、どの事業者の、どの国の登録のもとで提供されているのかは、画面からは分かりません。交換の先にあるDEXのプログラムを、誰が確かめたのかも分かりません。
もしこのアプリが、不具合のあるDEXへ案内していたら、損害は誰に請求できるのでしょうか。看板を立てた人に、案内の責任を問えるようにする。金融庁が三つめの層に最初に目を向けているのは、このためです。
二つめの場面は、親から暗号通貨を受け継ごうとしている、50代の女性です。
亡くなった父親が、自分で鍵を管理するウォレットに暗号通貨を持っていたとします。銀行口座なら、戸籍などの書類をそろえて窓口に行けば、手続きを進められます。けれど、アンホステッド・ウォレットには、窓口がありません。秘密鍵が見つからなければ、誰もそのお金を動かせなくなります。
ここでの責任は、財布の持ち主、つまり利用者自身にあります。仲介者がいない自由は、同時に、鍵を遺す準備を自分でしておく責任でもあるのです。
三つめの場面は、海外の取引先と代金をやり取りする、従業員20名ほどの製造業の経理担当者です。
今は、海外送金のたびに、銀行の営業時間と、数日の着金を待っています。金融庁が支援する実証では、証券や代金の受け渡しをブロックチェーンの上で同時に行い、いずれは24時間の取引をめざす取り組みも進んでいます。
こうした仕組みが広がれば、待ち時間は大きく縮みます。ただし、そのとき使うプログラムに不具合があれば、代金が届かないこともありえます。企業にとっては、どの層に誰が責任を持つのかが、契約書を読むのと同じくらい大切になります。
四つめの場面は、「高い利回りが毎日もらえる」と勧誘された、70代の男性です。
DeFiという言葉は、ときに詐欺の勧誘にも使われます。金融庁が2026年7月に公布した改正法の背景にも、無登録の業者による詐欺的な勧誘の相談が多数寄せられている、という事情がありました。「分散型だから、誰の許可もいらない」という説明は、責任の置き場所をわざと見えなくするために使われることがあるのです。
アプリの会社員、相続を控えた女性、経理担当者、勧誘を受けた男性。どの場面でも、問われているのは「便利かどうか」より先に、「何かあったとき、どの層の、誰に責任を問えるのか」です。
第六章:よくある三つの誤解と、その正体
DeFiの話が出ると、期待と不安の両方から、誤解が生まれます。ここでは、特に多い三つを取り上げます。
一つめの誤解は、「DeFiでは、誰も責任を持たない」というものです。
これまで見てきたとおり、責任は消えていません。四つの層に分かれて、別々の人に移っているのです。プログラムを書き換える権限を持つ開発者がいれば、その人に責任が近づきます。画面を提供する事業者がいれば、案内の責任が生まれます。そして、鍵を持つ利用者には、自分の財布を守る責任が残ります。
FATFが「支配者」という考え方を持ち出したのも、この層ごとの責任を見つけ出すためです。誰も責任を持たないのではなく、責任の持ち主が見えにくくなっている。それが、この誤解の正体です。
二つめの誤解は、「規制されたら、DeFiの意味がなくなる」というものです。
規制の議論は、DeFiの技術そのものを止めようとしているわけではありません。今回の研究会でも、野村ホールディングスは海外と同じ程度の自由度を求め、Securitize Japanは国際的な互換性の大切さを訴えました。当局の側も、技術の性質に合った、これまでとは違う規制の形を探るとしています。
米国でも、DeFiを含む暗号通貨の包括的な法案が議会で議論されてきました。そこでも、技術的な活動だけを理由に規制の対象とはしない、という考え方が盛り込まれています。規制は、層ごとに、リスクのある場所に置かれようとしています。
三つめの誤解は、「Bitcoinも、DeFiの一種だ」というものです。
どちらも仲介者を置かないという点は同じです。けれど、仕組みの成り立ちは大きく違います。
Bitcoinは、価値を記録し、送るための、一つの通貨とその帳簿です。ルールの変更には、世界中の参加者の広い合意が要ります。特定の開発者が、ある日一人で書き換えることはできません。そして、Bitcoinそのものには、利用者を勧誘する会社も、手数料を集める運営者もいません。
一方で、DeFiの多くは、Bitcoinとは別のブロックチェーンの上に、個別の会社やチームが作った金融サービスです。中には、開発者が強い権限を握っているものもあります。仲介者を置かないという理想は同じでも、その理想がどこまで実現しているかは、一つひとつ違います。
誤解の正体は、どれも同じところにあります。「分散型」という言葉だけで判断し、その仕組みの中で誰が何を担っているのかを、確かめないままにしていることです。
第七章:責任の地図を持つ人は、入口の選び方が変わる
ここまで読み進めていただいた方は、店番のいない金融の中で、責任がどこに置かれているのかを、自分の言葉で説明できるようになっているはずです。
DEX本体、アグリゲーター、画面、そして自分の財布。この四つの層に、それぞれ責任の持ち主がいます。この地図を持つと、新しい金融サービスに出会ったときに、確かめる順番が変わります。
まず、「どこから入ったのか」を確かめます。
使おうとしているアプリやウェブサイトを、どの事業者が提供しているのか。その事業者が、日本の金融庁に登録しているのか。金融庁は、登録を受けた事業者の一覧を公開しています。入口が登録業者なら、何かあったときの窓口があります。
次に、「誰が仕組みを動かしているのか」を確かめます。
そのDeFiのプログラムを、誰が作り、誰が書き換えられるのか。特定の会社が強い権限を持っているなら、それは分散型という看板の下で、実際には店番がいる仕組みです。店番がいるなら、その店番が誰なのかを知っておくべきです。
そして、「鍵は誰が持っているのか」を確かめます。
自分で秘密鍵を管理するなら、仲介者の窓口はありません。その代わり、鍵をなくさない準備と、家族に遺す準備を、自分でしておく必要があります。
「そこまで確かめるのは、手間がかかりすぎる」と感じる方もいると思います。けれど、確かめる項目は三つだけです。そして、三つのうち一つでも答えに詰まるなら、その入口は使わなければよいのです。
この三つの問いは、保険の加入をすすめるときとまったく同じです。私も、生保の営業をやっていた頃は、「どの会社の、どの窓口が、何を保証しているのか」を、お客様と一緒に確かめていました。責任の地図を読む力は、昔から暮らしを守る力でした。
ここで、学ぶ順番について触れておきます。
当協会は、暗号通貨を学ぶとき、仕組みを先に、個々のサービスや銘柄は後に、という順番をおすすめしています。家を建てるときに、間取りより先に土台を固めるのと同じです。
DeFiの土台には、Bitcoinが2008年に示した「仲介者なしで、全員が同じ帳簿を確かめる」という設計があります。この土台を理解していれば、ある仕組みが本当に分散しているのか、看板だけが分散型なのかを、自分で見分けられるようになります。だからこそ、DeFiに触れる前に、まずBitcoinの設計から学ぶことが、いちばんの近道になります。
決断は、いつでもいい。けれど、決断できる状態は、今日からつくれます。
まとめ:店番がいなくても、責任は消えない
2026年10月20日、金融庁は「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」を開きました。ステーブルコインやトークン化とあわせて、DEXやDeFiのリスクをどう減らすのかが、主な論点の一つになっています。2027年の初めには、中間的な整理と、官民のロードマップがまとめられる予定です。
DeFiは、仲介者を置かずに、プログラムが自動で金融の取引を受け付ける仕組みでした。その発想の源には、2008年にBitcoinが示した「信頼できる第三者に頼らない」という設計があります。
けれど、仲介者がいなくなっても、仲介者が担っていた役割は消えませんでした。本人確認、不具合への対応、犯罪への備え、困った人の窓口。それらは、DEX本体、アグリゲーター、画面、利用者自身のウォレットという四つの層に分かれて、別々の持ち主へと移っていました。
日本の当局は、このうち、国内の利用者に向けて画面を提供する層から、まず実態の把握を進めようとしています。国際的には、FATFが「支配者」の有無と特定の可否で仕組みを分ける考え方を示しました。欧州も、「真に分散化されている」かを判断する基準づくりを進めています。どれも、技術の名前ではなく、責任の置き場所を問う取り組みです。
ここに、この記事でいちばんお伝えしたいことがあります。
「分散型」という言葉は、安心の証明でも、危険の証明でもありません。大切なのは、その仕組みの中で、誰が何を担っているのかを確かめることです。どこから入ったのか。誰が仕組みを動かしているのか。鍵は誰が持っているのか。この三つの問いを持つ人は、新しいサービスがどれだけ便利に見えても、慌てずに入口を選べます。
同時に、仲介者を置かないという理想を、もっとも素朴な形で実現してきたのがBitcoinです。特定の誰かが書き換えられないルールを、世界中の参加者が同じ帳簿で確かめる。この設計を知ることが、店番のいない金融を見きわめる、いちばん確かな物差しになります。
当協会は、その物差しを身につける最初の一歩として、Bitcoinの設計を学ぶことをおすすめしています。
畑の脇の無人販売所が何十年も続いてきたのは、仕組みのおかげだけではありません。そこに通う人たちが、自分の手で代金を確かめてきたからです。
この記事について
- 執筆者:山下健一(一般社団法人日本クリプトコイン協会 代表理事)
- 公開日:2026年10月25日
- 最終更新日:2026年10月25日
- 参考資料:金融庁「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」(令和8事務年度第1回、2026年10月20日)議事次第・事務局説明資料・メンバー等名簿/金融庁「成長投資を促進するための金融戦略」(2026年7月21日公表)/金融庁 金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」報告(2025年12月10日公表)/FATF “Targeted Report on Regulatory Challenges from Decentralised Finance”(2026年7月)/FSB “The Financial Stability Risks of Decentralised Finance”(2022年2月)/Satoshi Nakamoto “Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System”(2008年10月31日)
- 位置づけ:本記事は当協会の公式見解です。
暗号通貨技能検定とは
こんな想いの方々が受講されています
- 暗号通貨やブロックチェーンについて、知識の有無にかかわらず興味関心がある。
- 同一労働・同一賃金が施行された中、資格を得て他者との収入に違いを出したい。
- 自社のビジネスにブロックチェーン技術がどの様に導入できるのかを知りたい。
- SDGsの目標達成に対し、ブロックチェーン技術がどの様に関係していくのかを知りたい。
- 暗号通貨に関する情報を、仕組みや構造から自分で読み解く力を身につけたい。
- 暗号通貨の始め方や取り扱いを覚えたいが、書店に並んでいる本やYoutubeを見ても理解が進まない。
- 講師としての資格を取得し、より多くの方々へ暗号通貨の思想やブロックチェーン技術の概念を伝えたい。
投稿者プロフィール
- 代表理事
-
暗号通貨の思想とブロックチェーンの概念は、金融システムをより安全に低コストで運用できるだけでなく、銀行口座を持たない20億人の生活環境を底上げします。また、寄附や募金へ広く活用されることは、SDGsの達成にも貢献する事でしょう。一人でも多くの方と共に、正しい暗号通貨システムの可能性を学び、実生活や仕事にも取り入れて頂けるよう、当協会はこれからも「暗号通貨技能検定講座」の開催を重ねて参ります。
【資格・受賞歴】
・日本メンタルヘルス協会公認カウンセラー
・東久邇宮記念賞受賞
・東久邇宮文化褒賞受賞
・特許:特開2016-081134号
・特願:2018-028585
