年を重ねても、自分のお金は自分で動かせる。多くの方は、そう思っています。通帳があり、カードがあり、スマートフォンがあります。もちろん、そう考えることが悪いわけではありません。私たちの毎日は、ほとんどがその通りに動いているからです。
しかし、それだけでしょうか。
「うちは、まだ大丈夫」。多くの方が、そうおっしゃいます。私も、両親に同じ言葉を返されました。
2026年6月17日、国会で一本の法律が成立しました。「民法等の一部を改正する法律」です。同月24日に公布され、令和8年法律第45号となりました。
この法律は、成年後見制度を26年ぶりに作り直します。後見と保佐という二つの制度を廃止し、補助の制度に一元化します。施行は、公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日です。
報道の扱いは、決して大きくありませんでした。株価も動きません。けれど、2000年に始まった制度が、初めて土台から組み直されます。
成年後見と聞いて、自分に関係があると感じる方は多くありません。私も、生命保険の営業をやるまでは、そう思っていました。ご契約者のご家族から「母の口座からお金が出せない」と相談を受けて、初めて中身を調べたのです。
最高裁判所事務総局家庭局の統計によると、この制度を利用している方は、令和7年12月末の時点で25万9,901人です。そして同じ年の申立てのうち、動機の93.4%が「預貯金等の管理・解約」でした。
つまり、この制度の入口のほとんどは、介護でも医療でもありません。お金に手が届かなくなること。それが入口です。
「本人のお金を、本人以外の誰かが動かす」。この状態をどう設計するのか。ここを考え抜くと、Bitcoinの設計思想の入口に立てます。
この記事では、価格の話を一切しません。扱うのは、託すという行為の中身と、鍵をどう設計するかだけです。専門用語は、出てきた場所でその都度ほどいていきます。
この記事で扱う3点
- 2026年6月に成立した民法改正が、成年後見制度の何を変えるのか
- 「託す」とは、権限と記録をどう設計する行為なのか
- 一人に託す設計と、一人では動かせない設計は、どこが違うのか
こんな方に向けた記事です
- 暗号通貨に関心はあるものの、まだ始めていない方
- 親御さんの通帳と印鑑を、そろそろ考え始めた方
- 金融・保険・証券・福祉の実務で、ご家族に聞かれて答えられなかった方
- 価格の話ではなく、仕組みから理解したい方
- ご家族に、お金の預け方を説明したい方
それでは、本文へとお進みください。
目次
第一章:2026年6月24日、成年後見制度が26年ぶりに組み直される
まず、事実だけを並べます。
2026年6月17日、「民法等の一部を改正する法律」が成立しました。同月24日に公布され、令和8年法律第45号となりました。所管は法務省です。
改正の柱は二つあります。成年後見制度の見直しと、遺言制度の見直しです。
成年後見制度については、後見および保佐の制度を廃止し、補助の制度に一元化します。そのうえで、本人にとって必要な範囲でその利用を可能とする形に変えます。
ここが、この改正の中心です。いまは能力の程度に応じて三つの型が用意されています。改正後は、型を選ぶのではなく、必要な事柄を選ぶ形になります。
たとえば「預金の払出しだけを手伝ってほしい」という方がいらっしゃいます。これまでは、その一点を助けるために、財産全体の管理まで委ねる場面がありました。
改正後は、必要な事柄を特定して申し立てられます。本人の望みを、より細かく反映できる形です。
もう一つ、制度を終えられるようにする点も大きな変更です。現在は、一度始まると原則として本人が亡くなるまで続きます。改正後は、必要がなくなれば終了できます。
施行の日は、内容ごとに分かれています。成年後見の見直しは、公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日です。つまり、遅くとも2028年12月までに動き出します。
遺言については、押印の任意化などが、公布の日から1年を超えない範囲内とされています。
さらに、電子データ等で作成して法務局に保管する「保管証書遺言」の創設などは、3年を超えない範囲内です。
あわせて、元気なうちに自分で支援者を決めておく任意後見契約の仕組みも残ります。先に備える道と、必要になってから使う道。その両方が用意されている点は、これまでと変わりません。
当協会は2026年9月2日に、この遺言側の見直しを一本の記事として扱いました。そちらは、亡くなった後の話です。
今回扱うのは、その手前にある話です。生きているうちに、判断が難しくなったとき、誰が、何を、どこまで動かせるのか。この一点だけを見ていきます。
この法律の提案理由には、こう書かれています。高齢化の進展、単身高齢者世帯の増加等の社会経済情勢の変化に鑑み、成年後見および遺言の制度を国民がより利用しやすいものとする。
「より利用しやすいものとする」。裏を返せば、これまでは使いにくかった、と国が認めたということでもあります。
法律の題名は長く、条文は読みにくいものです。けれど、この改正が動かしているのは、とても身近な場所です。親の預金口座、施設の利用料、実家の修繕費。そういう場所です。
そして、その身近な場所こそ、暗号通貨の設計思想が最も分かりやすく効いてくる場所でもあります。順を追って進みましょう。
第二章:世間は「認知症になったら後見人」と読む。統計はそう言っていない
この制度について、よく聞く説明があります。「認知症になったら、後見人がつく」というものです。
もちろん、この理解が悪いわけではありません。おおまかには合っています。けれど、数字を並べると、実際の姿は少し違って見えてきます。
まず、認知症の方の人数です。九州大学の二宮利治教授の研究班による将来推計では、2022年の認知症高齢者は443万2,000人、高齢者に占める割合は12.3%でした。2030年には523万1,000人、14.2%と見込まれています。
一方、成年後見制度の利用者は、令和7年12月末で25万9,901人です。内訳は、成年後見が18万828人、保佐が5万8,162人、補助が1万8,078人、任意後見が2,833人となっています。
二つの数字を並べると、制度を利用している方は、ごく一部にとどまっていることが分かります。認知症になったから自動的に後見人がつく、という仕組みではないのです。
では、何がきっかけで申し立てられているのでしょうか。それは、お金です。
令和7年の申立ては4万3,159件でした。申立ての動機を見ると、「預貯金等の管理・解約」が3万9,871件で93.4%を占めます。次が「身上保護」の3万1,655件で74.2%、「介護保険契約」が1万9,502件で45.7%、「不動産の処分」が1万5,502件で36.3%と続きます。
この4万3,159件は、前の年の4万1,841件より約3.2%増えています。急増ではありません。静かに、着実に増えています。
つまり、多くのご家族は、診断を受けた日に動いているのではありません。窓口で「ご本人でないと手続きできません」と言われた日に動いています。
診断の日ではなく、窓口の日。ここに気づくと、備えを置くべき場所が変わります。
もう一つ、意外に知られていない数字があります。成年後見人等に選ばれた方と本人との関係です。親族が7,014件で16.4%、親族以外が3万5,718件で83.6%でした。親族以外でいちばん多いのは司法書士で、1万1,966件です。
この8割という数字を見て、「家族なのに任せてもらえないのか」と感じる方がいらっしゃいます。けれど、これは制度の欠陥ではありません。
身寄りの少ない方が増え、親族どうしで意見が割れる場面も増えました。そのような中で、専門職の方々が地道に引き受けてくださっているという結果です。私は、この8割を支えている実務に敬意を持っています。
ずれているのは、制度ではなく、私たちの想像のほうです。多くの人は「判断能力の話」だと思っています。実際に起きているのは「お金に手が届かない」という、もっと具体的な話。
この差を埋めるために、次の章では「託す」という行為そのものを分解します。
第三章:託すとは、権限と記録を設計することである
成年後見制度は、家庭裁判所が本人を支える人を選ぶ仕組みです。選ばれた人には、本人に代わって契約や手続きを行う権限が与えられます。
この権限には、二つの種類があります。一つは、本人に代わって行う代理の権限です。もう一つは、本人が不利な契約をしてしまったときに、それを取り消す権限です。
そして、権限を渡したら終わりではありません。家庭裁判所が監督します。選ばれた人は、通常は年に一度、財産の状況と収支を裁判所に報告します。
ここで、銀行の窓口での扱いも見ておきましょう。2021年2月18日、一般社団法人全国銀行協会が「金融取引の代理等に関する考え方」を公表しました。
そこでは、判断能力が低下した方の預金について、成年後見制度の利用を求めることが基本であるとされています。成年後見人等が選ばれた後は、それ以外の親族からの払出しの依頼には応じない、という整理です。
ただし、例外も示されました。本人の利益に適合することが明らかである場合に限り、依頼に応じることが考えられる、というものです。具体例として、本人が入院している病院の医療費や、入所している施設の利用料を、本人の口座から直接その支払先へ振り込む場合が挙げられています。
この慎重さを、冷たいと感じる方もいらっしゃいます。けれど、銀行が守ろうとしているのは、ほかならぬ本人の財産です。ここを緩めれば、本人を装った別の被害が必ず出てきます。慎重であることには、理由があります。
さて、ここまでを整理すると、「託す」という行為は三つの要素に分解できます。
一つめは、誰が動かせるのか。これが権限です。二つめは、何にいくらまで使えるのか。これが範囲です。三つめは、誰がいつ何をしたのか。これが記録です。
現在の制度は、この三つを人に預ける形で組み立てられています。権限は選ばれた一人に集め、範囲は裁判所が決め、記録は年に一度の報告で確かめます。
範囲については、歯止めも用意されています。たとえば、本人が住んでいる不動産を処分するときは、家庭裁判所の許可が要ります。住まいは、生活そのものだからです。
財産の分け方にも工夫があります。日常の支払いに必要な分だけを手元の預貯金で管理し、通常は使わない分を信託銀行などに預ける。後見制度支援信託と呼ばれる仕組みです。
この預けた分を引き出すときは、家庭裁判所の指示書が必要になります。一人の判断だけでは、大きな金額が動かない形です。
家の鍵にたとえるなら、こうなります。玄関の鍵を一本渡し、使っていい部屋を紙で決め、一年に一度、どの部屋に入ったかを口頭で聞く。そういう設計です。
紙とハンコを前提にすれば、これは十分に合理的な設計でした。ではなぜ、その設計が選ばれたのか。次の章で、2000年まで戻ります。
第四章:なぜ2000年に、この設計が選ばれたのか
成年後見制度が始まったのは、2000年4月1日です。介護保険制度が始まったのと、同じ日でした。
この二つが同じ日に始まったことには、意味があります。介護保険は、それまで行政が決めていた福祉サービスを、利用者が事業者と契約して選ぶ仕組みに変えました。
いわゆる「措置から契約へ」という転換です。ここで一つ、大きな課題が生まれました。契約をするには、判断する力が要ります。
判断が難しい方は、契約という入口で立ち止まってしまいます。だから、契約を代わりに結べる人が必要になりました。成年後見制度は、その受け皿として設計されたのです。
それ以前にあったのは、禁治産・準禁治産という制度でした。名称そのものが重く、戸籍に記載される仕組みでもありました。2000年の改正は、その重さを取り払う改正でもあったのです。
宣告を受けた事実が戸籍に載る。この一点が、ご家族にとっては重い決断でした。だから、本当に必要な場面でも使われずに終わる、ということが起きていたのです。
2000年の改正では、この記載を戸籍から外し、法務局の後見登記に移しました。名称も「成年後見」に改めています。使いやすさへ一歩進めた改正でした。
そのうえで、判断能力の程度に応じて三つの型が用意されました。後見、保佐、補助です。型ごとに、渡される権限の束が変わります。
この「束で渡す」という設計は、当時の道具を考えれば、ほぼ最適でした。窓口は紙で、確認は印鑑で、記録は帳簿です。権限を細かく刻めば刻むほど、窓口が判断に迷い、手続きが止まります。
大きめの束をまとめて渡し、その代わりに裁判所が監督する。この形が、いちばん安全だったのです。
けれど、26年が経ちました。単身の高齢者世帯が増え、本人が望む支援の形も細かくなりました。「預金の払出しだけを助けてほしい」という方に、財産全体の管理まで渡す必要はありません。
今回の改正は、その束をほどきます。必要な事柄だけを、必要な期間だけ。使い終われば終了できる。そういう形へ移ります。
ここで大切なのは、2000年の設計が誤っていたと考えないことです。当時の道具では、あれが最善でした。変わったのは制度の志ではなく、使える道具のほうです。
いちばん変わったのは、記録の道具です。振込の明細は即時に手元へ届きます。写真も動画も残せます。家族が離れて暮らしていても、同じ画面を見られます。
記録が安く、速く、正確になったのなら、権限を束のまま渡す理由は小さくなります。今回の改正は、その変化を法律の側から受け止めたものだと読めます。
では、道具はどこまで変わったのでしょうか。次の章で、まったく別の分野から一つ借りてきます。
第五章:一人に託すのではなく、一人では動かせないようにする
ここからは、Bitcoinの設計を一度お借りします。価格の話ではありません。鍵の設計の話です。
Bitcoinでは、お金を動かす権利を「鍵」という形で持ちます。鍵を持っている人が署名をすると、その分だけ送れます。通帳も印鑑も窓口もありません。
この鍵は、一本である必要がありません。複数の鍵を作り、「そのうち何本の署名がそろったら送れるか」をあらかじめ決めておけます。これをマルチシグと呼びます。
たとえば、鍵を三本作り、二本の署名がそろったときだけ送れるように設定します。専門用語では2-of-3と書きます。
鍵の本数と、必要な署名の数は、自由に決められます。3本のうち2本でも、5本のうち3本でも構いません。
本人が一本、離れて暮らす子どもが一本、信頼する専門家が一本を持つとしましょう。すると、どの一人も、単独ではお金を動かせません。
そして、二人がそろえば動きます。本人と子ども、本人と専門家、子どもと専門家。どの組み合わせでも構いません。一本を紛失しても、残りの二本で動かせます。
玄関にたとえるなら、鍵穴が三つある扉です。どの二つを同時に回しても開きますが、一つだけでは開きません。合鍵を一本なくしても、家には入れます。
ここで、すると驚きの発見!
この設計は、人を信じる量を減らしているのではありません。信じる相手を一人に集中させることを、やめているだけなのです。
もう一つ、記録の話をします。Bitcoinでは、いつ、どの条件で、いくら動いたのかが台帳に記録されます。そして、その台帳は誰でも確認できます。
年に一度の報告を待つ必要がありません。動いた瞬間に記録が残り、後からいつでも見返せます。金額の粒も細かく、最小単位は1satoshi、つまり1億分の1BTCです。
さらに、情報の持ち方も特徴的です。Bitcoinのネットワークでは、すべてのフルノードが同じ情報を持ちます。ノードのあいだに、情報の格差がありません。
しばらく接続を切っていたノードも、つなぎ直せば、空白の期間の情報を無料で受け取れます。「知らなかった人」が置き去りにされない設計になっているのです。
家族に置き換えると、この意味がよく分かります。同居している人も、遠方に暮らす人も、台帳の見え方は同じ。ここが、電話で伝え合う運用との決定的な違いです。
ただし、大事な但し書きを置きます。この仕組みは、成年後見制度の代わりにはなりません。
施設と契約を結ぶ、医療の説明に同意する、不利な契約を取り消す。こうした行為には法律上の権限が要ります。法律上の権限は、鍵では作れません。
技術が担えるのは、三要素のうち「権限の分け方」と「記録の残り方」です。この二つだけでも、私たちの暮らしは、ずいぶん違ってきます。
第六章:暮らしのどこに効くのか。三つの場面で考える
ここまでの話を、三つの場面に下ろします。どれも、暗号通貨を持っていなくても今日から使える考え方です。
一つめ:毎月の施設利用料
たとえば、月8万円の施設利用料を、親の口座から払っているとします。金額は毎月ほぼ同じで、支払先も変わりません。
この支払いは「範囲がはっきりしている」種類のお金です。前の章の言葉で言えば、権限を大きく渡す必要がありません。
いまの道具でも、近い形は作れます。金融機関の代理人カードや代理人届、口座振替の設定です。判断能力があるうちに手続きをしておけば、窓口で止まる場面をかなり減らせます。
大切なのは、金額ではなく、用途を先に決めておくことです。
私も、生命保険の営業をしていた頃、ご家族から何度も同じ相談を受けました。「父は元気なのですが、念のため何をしておけばよいですか」。答えは、いつもこの手続きでした。
二つめ:実家の屋根の修繕費
次に、突発的なお金です。実家の屋根の修繕に35万円かかる、という場面を考えます。
毎月の支払いと違い、こちらは「決める」という行為が入ります。直すのか、直さないのか。誰に頼むのか。
ここで揉めるご家族を、私は何度も見てきました。原因はお金そのものではありません。誰が決めるのかを、決めていなかったからです。
ですから、金額の線引きを先に書いておきましょう。たとえば「10万円までは同居の家族が決める。それを超えるときは、きょうだい全員に連絡してから決める」。この一行が、あとで効いてきます。
紙に書くのは、相手を疑うためではありません。あとで思い出せない自分のために、書いておくのです。
三つめ:きょうだいのあいだの立替と精算
三つめは、少額で、何度も起きるお金です。病院までのタクシー代、日用品、紙おむつ。こうした立替は、月に2回も3回も発生します。
一回の金額は小さくても、回数が積み上がると、記憶があいまいになります。そして「あのとき誰が出したか」で空気が悪くなります。
ここで効くのは、送金そのものよりも記録です。立替と精算を、その都度、全員が見られる場所に残しておく。共有の家計簿でも構いません。
紙のノートでも十分です。日付、金額、用途、立て替えた人。この四つを書く欄さえあれば、記録としては足ります。
なお、海外に住むご家族がいる場合、少額の国際送金は手数料と日数の両方が重くのしかかります。数千円を送るために数千円かかる、という場面も珍しくありません。
暗号通貨のネットワークが解こうとしているのは、まさにここです。国境をまたいでも、少額でも、記録が残り、中間の手続きが少ない。これが設計の狙いです。
三つの場面に共通するのは、一つの問いでした。誰が、どこまで、どう記録して動かすのか。この問いを先に片づけておくことを、私は「順番を知る」と呼んでいます。
第七章:よくある誤解と、今日からできること
ここで、いただくことの多い誤解を四つ、先に片づけておきます。
誤解1:マルチシグにすれば、成年後見制度は要らない
要ります。前の章でも触れたとおり、施設や病院との契約、不利な契約の取消しは、法律上の権限がなければできません。
鍵は、お金の動かし方を決められます。けれど、本人に代わって意思表示をする資格は作れません。両者は、代わりではなく、役割が違います。
誤解2:暗号通貨を持っていると、家族が困る
困るのは、暗号通貨を持っているからではありません。鍵の設計をしていないからです。
これは現金でも同じです。金庫の暗証番号を誰も知らなければ、中身が何であれ開きません。貸金庫も、実家の権利証も、事情は変わりません。
むしろ、暗号通貨は「誰が動かせるか」を設計として書いておける点で、扱いやすい面があります。知らないまま持っている状態が、いちばん危ういのです。
誤解3:保管証書遺言ができれば、生前も安心になる
遺言は、亡くなった後に効き始めます。判断が難しくなってから亡くなるまでの期間には、届きません。
その期間を受け持つのが、成年後見制度であり、任意後見契約であり、家族信託です。遺言と、生前の備えは、別の道具だと考えてください。
誤解4:まだ元気だから、考えるのは先でいい
先に延ばせる方は、実は多くありません。備えの手続きは、判断する力があるうちにしかできないものばかりだからです。
代理人届も、任意後見契約も、鍵の分け方も、すべて本人が決める行為です。必要になってからでは、その入口が閉じています。
もちろん、急いで何かを買う必要はまったくありません。準備は、順番を知ることから始まります。
では、今日からできることは何か
三つ挙げます。どれも、お金はかかりません。
一つめは、一覧を作ることです。銀行、証券、保険、年金、暗号通貨の口座。どこに何があるかを、A4の紙1枚にまとめます。残高は書かなくて構いません。
暗号通貨をお持ちでない方も、一覧に「持っていない」と書いておくと役に立ちます。探す時間が、そのまま減ります。
そして、この紙を金庫にしまわないでください。しまった場所を忘れる。これが、いちばん多い失敗です。
二つめは、線引きを決めることです。いくらまでを誰が決めるのか。前の章で挙げた「10万円」のような数字を、家族で一度だけ話しておきます。
三つめは、一人では開けられない形にしておくことです。暗証番号や復元用の言葉を、一か所にまとめて置かない。二か所に分け、誰と誰がそろえば開くのかを決めておきます。
この三つを済ませておけば、新しい制度が動き出す日までに、ご家族の準備は間に合います。理解が変わると、行動は静かに変わっていきます。
まとめ:託すとは、信じることではなく、設計することである
ここまでの話を、もう一度たどります。
2026年6月17日に成立し、6月24日に公布された民法等の一部を改正する法律。後見と保佐を廃した、補助への一元化。必要な範囲で使い、終えられる制度への転換。
25万9,901人という利用者数。93.4%という、預貯金等の管理・解約という動機の割合。そして、親族以外が83.6%という現実。
これらの数字が語っているのは、一つのことだと考えています。私たちは、託すという行為の設計を、ほとんど誰にも習わないまま年を重ねている、ということです。
託すという言葉は、どうしても気持ちの話に聞こえます。誰を信じるか、という話に読めます。
けれど、制度も技術も、まったく違うことを言っています。誰が動かせて、何に使えて、誰がいつ何をしたかが残る。この三つを決めておくこと。それが、託すという行為の中身です。
気持ちだけで支えようとすると、支える側が先に疲れます。設計があれば、気持ちは気持ちのままで置いておけます。
Bitcoinのネットワークは、そのことを2009年から、黙って実装してきました。鍵を分けられる仕組み。動いた瞬間に残る記録。そして、すべてのフルノードが同じ情報を持つという在り方。
離れていた人が戻ってきても、空白を無料で埋められる。この設計が人間の社会でも当たり前になれば、人はもっと豊かな気持ちで毎日を過ごせる。私はそう考えています。
当協会が、価格ではなく仕組みから学ぶ講座を毎月続けているのは、この一点のためです。相場を当てる技術ではなく、順番を知るための時間として設計しています。
私は技術系の職に16年就き、そのあと外資系生命保険の営業に移りました。二つの現場で、同じ場面を何度も見ています。困っているのは、知らなかった人ではありません。順番を教わらなかった人です。
怖いのではありません。順番を知らないだけなのです。新しい制度が動き出すまでには、まだ時間があります。
一本の法律。26万人という数字。93.4%という割合。三つ並んだ鍵穴。そして、まだ何も起きていない今日という一日。
決断は、いつでもいい。決断できる状態は、今日つくれる。
家の合鍵を、いま誰に渡してあるか。それをすぐに思い出せた方は、もう半分終わっています。
この記事について
- 執筆者:山下健一(一般社団法人日本クリプトコイン協会 代表理事)
- 公開日:2026年9月23日
- 最終更新日:2026年9月23日
- 参考資料:法務省「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号。2026年6月17日成立、同月24日公布)/最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況 ―令和7年1月~12月―」(2026年3月公表)/一般社団法人全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方」(2021年2月18日公表)/厚生労働省 令和5年度老人保健事業推進費等補助金「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」(九州大学・二宮利治教授)
- 位置づけ:本記事は当協会の公式見解です。
暗号通貨技能検定とは
こんな想いの方々が受講されています
- 暗号通貨やブロックチェーンについて、知識の有無にかかわらず興味関心がある。
- 同一労働・同一賃金が施行された中、資格を得て他者との収入に違いを出したい。
- 自社のビジネスにブロックチェーン技術がどの様に導入できるのかを知りたい。
- SDGsの目標達成に対し、ブロックチェーン技術がどの様に関係していくのかを知りたい。
- 暗号通貨に関する情報を、仕組みや構造から自分で読み解く力を身につけたい。
- 暗号通貨の始め方や取り扱いを覚えたいが、書店に並んでいる本やYoutubeを見ても理解が進まない。
- 講師としての資格を取得し、より多くの方々へ暗号通貨の思想やブロックチェーン技術の概念を伝えたい。
投稿者プロフィール
- 代表理事
-
暗号通貨の思想とブロックチェーンの概念は、金融システムをより安全に低コストで運用できるだけでなく、銀行口座を持たない20億人の生活環境を底上げします。また、寄附や募金へ広く活用されることは、SDGsの達成にも貢献する事でしょう。一人でも多くの方と共に、正しい暗号通貨システムの可能性を学び、実生活や仕事にも取り入れて頂けるよう、当協会はこれからも「暗号通貨技能検定講座」の開催を重ねて参ります。
【資格・受賞歴】
・日本メンタルヘルス協会公認カウンセラー
・東久邇宮記念賞受賞
・東久邇宮文化褒賞受賞
・特許:特開2016-081134号
・特願:2018-028585
